Side

 

 

 

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はじめに

音源は Xpand!のLoop音源を録音した素材。それにRTAS(Real Time Audio Suite)のCompressor/Limiter Dyn 3でプリセットデータの「Drum Comp」を何も設定を変えずにかけてある。前半はバイパスしてコンプレッサがかかっていない状態、後半はかかった状態にしてある。

LISTEN 01 Getting Started

0:00〜 Original 
0:04〜 Compressed

まずは小手調べ。MUTEで前半が元の音、後半がコンプレッサをかけた音になっている。ぼーっと聞き流していると何も変わっていないように聞こえるけど、注意深く聴いてみると音質が変化しているのが判る。この音を聴いて「あ、コンプかかったね。」とすぐ判るようになるのが目標。今は判らなくてもOK。

実はエンジニアとしてコンプレッサ処理をするときにこの程度の使い方が一番多く、誰が聞いてあからさまに判るような使い方はクリエータの領域。「おい、仕事で疲れてるのかよ?クリエイティビティが足らないんじゃね?」とかいわれそうだが、プロの料理人にマヨネーズ味しかしない料理を作ってもらおうとは思わないでしょ。エビマヨは旨いけど、仕事でそれしか作れないのは問題なわけだ。

 

スレッショルド (Threshold)

スレッショルドは日本語で敷居という意味。あの店は敷居が高いとか、うちの敷居はまたがせないとかいうあの敷居だ。敷居は閾とも書くので、文献によってはこのスレッショルドを閾値と表記してあるものもある。

コンプレッサのパラメータとしてのスレッショルド(正確にはスレッショルドレベル)は簡単に言えばコンプレッサのかかり具合。大きい音を押さえるのがコンプレッサの働きだけど、その「大きい音」とはどのぐらい大きい音かを決めるパラメータだ。ちなみにパラメータというのは元々は変数とか要素という意味だけど、ここでは「つまみ」と置き換えてもらっても問題はない。

スレッショルドを低く取れば、小さい音からコンプレッサが働き音量を押さえるが、スレッショルドが高ければ大きい音にしか反応しない訳だな。また当然ながらスレッショルドを一番高く取った場合は、入力された音がスレッショルドに届かないためコンプレッサは実質何もしない。

Compressor/Limiter Dyn 3プラグインのグラフで見ると縦のオレンジの線がスレッショルドの位置。この線を越えたらコンプレッサを働かせるわけだな。

LISTEN 02 Threshold

0:00〜0:02 Threshold 0dB
0:04〜0:06 Threshold -20dB
0:08〜0:10 Threshold -40dB
0:12〜0:14 Threshold -60dB

スレッショルドを変化させると、音源のようにスレッショルドが低くなるに従って音量が抑えられていく。音質も同時に変化していき、スレッショルドが低くなるに従って音質は締まっていくと同時にヌケの悪い音になる。どの辺りを気持ちいいと感じるかは音楽により個人により違うけど、一般的にジェネレーションが若くなるほどコンプは深め(=スレッショルド低め)がお好き♪

 

ゲイン (Gain)

SSLのマスターバスコンプレッサなどはメイクアップ(Make Up)・dbxなどはアウトプットゲイン(Output Gain)と呼んでいるが同じ働き。コンプレッサは大きい音量を抑えるものなので、当然強くかければかけるほど音量が小さくなる。音量を小さくするのが目的ではなく、コンプレッサでの音作りや音量の均一化を図っている場合はそのままでは使いにくい。よって単純にコンプレッサがかかった後の音量を上げる働きだ。

LISTEN 03 Gain

0:00〜0:02 Threshold 0dB
0:04〜0:06 Threshold -20dB
0:08〜0:10 Threshold -40dB
0:12〜0:14 Threshold -60dB

音源はThresholdの所で使ったものと同じものを使っているけど、ゲインを調整してコンプレッサのかかり具合によって音量感が変わらないようにしてある訳だな。

気をつけなきゃいかんのは、コンプレッサがかかってなければこのゲインを上げる必要はなかったって事。単純に音量上げているだけだから、その分だけノイズも増えるし、カブリの音も大きくなるし、PAではハウリングマージンも少なくなる。レコーディングではこの辺をクリアしやすいので(ノイズやカブリを少なく録音できる・ハウリングは考えなくて大丈夫)極端にスレッショルド低めの設定でゲインを上げたような設定も可能になる。例えばウィスパーボイス(ささやき)なんかは音量が小さいのでコンプレッサのお世話になる必要は全くないんだが、これにあえてコンプレッサが深くかけることもレコーディングでは可能なわけだ。

Gain

 

レシオ (Ratio)

レシオとは比率という意味で、コンプレッサの場合はスレッショルドを超えた音に対して(本来の音量に対して)どのくらい押さえるかを設定する。入力:出力の形で表し、出力が1固定で表されるので少し判りづらいけど、2:1だったら入力が2増えたら(本来は出力も2増えるものを)出力を1増やすという考え方。だからもし入力が4増えたら出力は2増える。

Compressor/Limiter Dyn 3プラグインのグラフで見るとスレッショルド以上の部分が下向きに折れ曲がっているけど、この角度がレシオによって決まる訳だな。

これは2:1の場合のグラフで縦軸が出力、横軸が入力を表す。スレッショルド(オレンジ線)より右側は白線が折れ曲がっているが、その角度は縦(出力)1マスに対して横(入力)が2マスになっている。つまりスレッショルド以上は入力が2増えてやっと出力が増えるというわけだ。

当然レシオが大きくなると、スレッショルド以上の白線は平行に近づいていって、最終的に入力がどれだけ増えても出力が増えない状態になるけど、このときのレシオを∞:1と表す。


この状態は音量の最大値がスレッショルドの時の出力で、それ以上にはならないことから、出力を制限する機械という意味でリミッタ(Limiter)と呼ばれる。

実際にはそれほどシビアにしなくても20:1を越えればほとんど平行線に近くなるので、20:1以上はリミッタとしての使い方と言っていいと思われ。このコンプでは100:1が最大になっている。

またdbx160Aなどのようにこのレシオが∞を越えてマイナス表示のものもあるが、-1:1というのはスレッショルドを越えた音量が1増えると、出力が1減るというもの。特殊な音作りやスピーカ保護などで使い道はあるけどまあここでは割愛。

LISTEN 04 Ratio

0:00〜0:02 Ratio 1:1(OFF)
0:04〜0:06 Ratio 1.5:1
0:08〜0:10 Ratio 2:1
0:12〜0:14 Ratio 4:1
0:16〜0:18 Ratio 8:1
0:20〜0:22 Ratio 20:1
0:24〜0:26 Ratio 50:1

音源を聞いてみると同じスレッショルドでもコンプレッサのかかり具合が違うのが判ると思う。 最初はレシオが1:1のため、スレッショルドをがんがん越えているにもかかわらずコンプレッサは働かない。アナログのアウトボードの場合はこの状態でも中の回路を通っているので、音質変化が起きる可能性があるが、このコンプレッサではバイパスと音質は変わらない。次の1.5:1は効果は判りにくいが、スネアの音のカドが取れるのが判るかな?2:1はそれをさらに強めた感じで、この辺りまでは普通の人が聴いてもコンプレッサがかかっているとは思わない。よってコンプレッサが必要だが、あまりあからさまな使い方を避けたい場合はこの辺りの低レシオを使用する。ボーカルやベースの掛け録りなんかはこの辺を使うのが王道だ。レベル差を押さえ込むわけではなく、少しだけ大きい音と小さい音の差がなくなるそんな感じ。

数字的にはあまり大きく感じない4:1だけど、この例ではけっこうがっつりコンプレッサがかかっているのが判るでしょ。よって「コンプサウンド」はこの辺りの中レシオが使いやすい。単体にしろ全体にしろドラムにかけるときには、音色を変化させることを目的とすることが多いので、この辺りがしっくりくる。

8:1を越える高レシオになると、大きい音が押さえ込まれてそれより小さかった音と同じレベルになってしまう。1:1の時にはスネア>キック>ハイハットという音量がはっきりしていたが、8:1でスネアとキックが逆転、50:1以上になると、キックも押さえ込まれてスネア=キック=ハイハットのようなイメージに変わる。高レシオは音質的にはバランスが崩れるし正統派の使い方ではないが、独特の圧縮館から来る息苦しさがかっこいいこともあり、特に打ち込み系のドラムに多用される。

 

アタック (Attack Time)

コンプレッサの使い方で一番キモになるパラメータ。本来コンプレッサというものは、スレッショルドを越えた入力があった場合にはすぐレシオで決められた比率で音量を抑えなくてはいけないわけだけど、この反応をあえて遅くするのがアタックなんだな。

アタックという言葉は音の出始めの部分という意味で、ほとんどの楽器はこの部分に一番大きい音が来る。ドラムなら叩いてすぐが一番音が大きいし、弦もはじいてすぐが一番大きい音がするわけだ。

でアタック(のパラメータ)が短いとこの大きい音をしっかり押さえようとするんだが、長く取るとその大きい音のときにコンプレッサは何もせず、一番大きい音を素通りさせるという大失態を演じる。そして大きい音が通り過ぎた後に、中ぐらいの音を押さえにいくわけだ。中ぐらいの音にしてみれば「え?なんで俺?」状態だな。で、中ぐらいの音が押さえられることによって大きい音との差がより大きくなって、結果として音の大きいアタック部分が強調されるという現象が起きる。またあまりにもアタックタイムを長く取ると、ほとんどの音が素通りしてしまいコンプレッサの意味がなくなっていく。

Attack

LISTEN 05 Attack1

0:00〜0:08 Original
0:09〜0:13 1
0:14〜0:18 2
0:19〜0:23 3

Attackまずはエレクトリックギターの5弦解放をピックで弾いた音。当然音の出だしが一番音が大きいが、これを図のように1・2・3と分解して、4回ずつ鳴らしてみる(音量差は少し補正してある)そうすると1の部分は音質が明るくはっきりしているのに対して、2は暗くもわっとしている。3はさらにその傾向が強くなる。

ということで実は楽器の音というのは、アタック部分で音が一番大きいだけではなく、それと同時に最も複雑な倍音の多い音を出しているため音質が堅くて明るいんだな。よってアタックタイムの設定によって音量だけではなく、音質までも変化させられることになる。アタックタイムを少し長めに取ったコンプレッサをかけると粒立ちのはっきりする音になるのは、この辺りにも理由がある。

Attack

LISTEN 06 Attack2

0:00〜0:02 Attack 10us
0:04〜0:06 Attack 100us
0:08〜0:10 Attack 1.0ms
0:12〜0:14 Attack 10ms
0:16〜0:18 Attack 100ms
0:20〜0:22 Attack 300ms

Compressor/Limiter Dyn 3のアタックタイム最速は10us(uはμの疑似表記)。てことは0.00001秒ということで実質0と言っていい。(プラグインの中にはデータを先読みして完全に0を実現するのもある)

音源を聴いてみると、10usの時には当然大きい音が入力された時点ですぐにコンプレッサが働くので、音は完全に押さえられ、息苦しいいかにも圧縮された音10ms(0.01秒)ぐらいになると大きい音を素通りさせた直後にコンプレッサが働くようになので、音にメリハリが出てきて心地よいコンプレッササウンドになるが、100msを越えるとほとんどバイパスと同じ状態になってしまう。

LISTEN 07 Attack3

0:00〜0:04 Original
0:04〜0:08 Compressed

さらに積極的にコンプレッサを使う例として、ギターの音をパキパキにする方法。ギター用のコンパクトエフェクタのコンプレッサはこの音を目指していることが多い。前半がコンプレッサをかけない音、後半がかけた音だ。

 

リリース (Release)

リリースとは放つという意味で、CDをリリース(一般に向けて販売する=放つ)とか釣りでキャッチ&リリース(放流)とかは耳にしたことがあるだろう。コンプレッサの場合は一旦スレッショルド以上の入力があってコンプレッサが動作して、その後再びスレッショルド以下になったときに、速攻でコンプレッサの動作をやめるのか、しばらく動作を続けるのかをコントロールするパラメータだ。

正直アタックほど派手な変化があるわけではなく、どちらかというと補助的な役割だが、設定を間違えると気持ち悪い音になる。逆におおざっぱに言えば、気持ち悪い音にならない程度に適当に上げておけばいいパラメータだと言える。だけど色々な音が入っている音源ではかなりシビアに設定しないと、まるっきり音のイメージが変わってしまう。

LISTEN 08 Release1

0:00〜0:02 Release 5.0ms
0:02〜0:04 Release 20ms
0:04〜0:06 Release 100ms
0:06〜0:08 Release 500ms

単体の例。ベースをライン録りしたものだが、リリースが最速の5.0ms(0.005秒)の時には、ベースの音が途中から浮き上がってきて、フェードインしているような「ふわっ・ふわっ」という音になり、非常に落ち着かない。20ms(0.02秒)にすると、浮き上がってくる感じが少し押さえられて歯切れがよい感じに変化する。さらに100ms(0.1秒)にすると「ぶっ・ぶっ」という指弾きらしい音に、1.0s(1秒)にすると、「もん・もん」と重くこもった音質になる。よって今回の正解は「10ms〜500msの間で自分が好きな音」になる。

LISTEN 09 Release2

0:00〜0:02 Release 5.0ms
0:02〜0:04 Release 25ms
0:04〜0:06 Release 100ms
0:06〜0:08 Release 1s

リリースのとり方によって音が変化する例。少し聞き分けが難しいスネアの音に注目。リリースが最速の5.0ms(0.005秒)にすると、スネアの音が「たう」という感じで余韻の音が少し強調されているが、25ms(0.025秒)にすると、「たっ」という感じでスネアの音が変化する。さらに100ms(0.1秒)にするとスネアの音量全体が押さえ込まれる感じ、1.0s(1秒)にすると、もうコンプレッサがかかりっぱなしですべての音が押さえ込まれてしまうが、タイミング的にスネアの鳴っていないところで鳴るキックはあまり押さえられていない。

 

ニー (Knee)

ニーは膝という意味でグラフの形から来ていて、dbx社のコンプレッサではオーバーイージー(Over Easy)という表記になっている。高レシオの場合にスレッショルドより大きい音は急激に押さえられるので、音源がスレッショルド近辺を行き来するような設定にした場合、コンプレッサがかかったりかからなかったりすることによって、音的に不自然になることがある。これを目立たないようにするのがニーの役割で、スレッショルド以下の音も押さえる事によって、スレッショルド近辺で急にコンプレッサが働くようになるのを防いでいるわけだ。

コンプレッサ本来の動作はハードニーと(ハードニートって変換した…堅自宅警備員か…)呼ばれるスレッショルドから急激に動作をはじめるものだが、ニーを使うとカドが丸まっていく。このような状態をソフトニー(祖父トニーって変換した…じいちゃん外人なんだ…)と呼ぶ。スイッチでこの2つの状態を切り替えるものも多いけど、Compressor/Limiter Dyn 3は連続か変出来るようになっていて、左に回しきった状態(0dB)がハードニーで、右に回していくにつれソフトニーとなっていく。

Knee

ニーのメリットはなんといってもかかりの自然さ。高レシオでも違和感を取ることができる。デメリットはスレッショルド以下の音も押さえてしまうことから、本来必要とする働きより多めに(無駄に)コンプレッサがかかってしまうことにある。

ドラムのキックやスネアは単発の音なのでスレッショルドを1回しか越えない。よってニーの意味がないわけだが、これは一回きりか毎回同じ音量で鳴ると仮定した場合。打ち込みでベロシティとボリュームを一定にしたような音源ならニーの意味はないが、実際のドラムだと微妙に音量が変わるので、ニーを使った方が音量差をある程度解消しながら同じようなコンプレッサのかかり具合になるので便利。ただこれもスレッショルドが低めだと結局小さいときも大きいときもコンプレッサががっつりかかってしまうので、この場合ニーの意味はほとんどなくなる。

ベースやボーカルはニーがなじみやすい音源。音の出始めから終わりまで音量変化が一定ではないので、ソフトニーにした方が広い範囲を自然にカバーできる。またトータルコンプと呼ばれるステレオマスタトラックにかける音量上げのためのコンプも、このソフトニーを上手く使うことによって、中域に起きる歪み感などを低減できる。

ハードニーの方が都合がよいものとしてはまず、録音レベルやスピーカ保護のために入れるコンプレッサ(リミッタ)が挙げられる。コンプレッサが働いている状態というのはあくまでも非常事態なので、かかり際を自然に聞かせる必要がなく、ソフトニーにすると正常に働いている音量でもコンプレッサがかかってしまうからだ。ハードニーにしておけばスレッショルドぎりぎりまでコンプレッサを働かせずにすませることができるということだな。

またアタックの時に例としてだしたギターの音のようにパキパキサウンドを作るときにも、あからさまにコンプレッサがかかった部分を強調するわけだから、ハードニーの方が効果的にできる。

LISTEN 10 Knee1

0:00〜0:04 Knee 0dB
0:06〜0:10 Knee 15dB
0:12〜0:16 Knee 30dB

ドラムの音に高レシオのコンプをかけてみた場合。0dBの時(ハードニー)には、一番大きいスネアが押さえられる感じで、15dBの時にはキックが道連れに、30dBの時にはハイハットも巻き添えを食っている感じだ。どれが正解というわけではないけど、ハードニーの時には音が元気だし、ソフトニーの時にはバランスよく落ち着いた音になっている。(コンプレッサ感も強い)

LISTEN 11 Knee2 3:12.000

0:00〜0:02 Knee 0dB
0:02〜0:04 Knee 30dB

ギターの音をパキパキにする例。前半がハードニーで後半がソフトニー。ソフトニーだとアタックの強調が弱くなってしまう。